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季刊誌「ハーネス通信」

2023年10月のバックナンバー

盲導犬ユーザーの職場訪問(1) 視覚障がい者の福祉や文化向上のために働く(2023年秋号)

 Nさんが盲導犬ユーザーになったのは、約30年前の大学生の頃。卒業後に兵庫県視覚障害者福祉協会に就職されてから現在まで盲導犬と共に通勤し、お仕事を続けておられます。場所は、兵庫県神戸市中央区にある兵庫県福祉センタービルの一階。約束の時間に伺うと、Nさんと共に、犬用アロハシャツを着た盲導犬が陽気に歓迎してくれました。
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お仕事について
Q:Nさんは、ここでどんなお仕事をされているのですか?
A:主には、行政が発行している数々の広報誌の点訳と、同じ施設内にある点字図書館の点字ボランティア養成講座の講師です。時々は神戸市内の中学校や高校などから依頼され、外部講師として、生徒さんに点字の授業をすることもあります。

Q:お仕事中の盲導犬の様子は?
A:私がここで事務仕事をしているときは、この範囲内を自由にしています。一番涼しいところでねそべったり、寂しくなると私の足元に来たりしています。

Q:ずいぶんのびのびと、自由なんですね。
A:はい、職場のみなさんがとても温かく見守ってくれています。

Q:点字ボランティアの講師をされるときも、盲導犬を同伴するのですか?
A:いいえ。いびきが受講生の気を引いてしまうので、ここに置いていきます。(笑) 学校など外へ講師に行くときは、もちろん一緒ですけれどね。

Q:盲導犬と一緒のときは、盲導犬の説明もしますか?
A:はい。同伴の有無に関わらずしています。点字を学ぼうとする人には、視覚障がい者や盲導犬のことについても知ってほしいですし。点字ばっかりだと眠くなるし、犬のネタで起きてもらわなくちゃ。みなさん興味を持って聞いてくださいますよ。

Q:盲導犬についての啓発では、どんなことに気を付けていますか?
A:なんとなく盲導犬は可愛そうとか、視覚障がい者は暗いとか、というイメージがあるでしょう。ぜんぜんそんなことはなくて、みなさんと変わらない、自由で楽しい生活しているよっていうことを知ってもらえるよう、常に笑いのネタを探してます。(笑)


盲導犬について
Q:盲導犬ユーザー歴29年ということは、何頭目ですか?
A:5頭目です。実は4頭目まではすべて黒のラブラドールでした。イエローは初めてなんです。

Q:へぇ~、黒が続いていたのですね。5頭それぞれ、性格は違うのでしょうね。
A:そうですね。全く違います。特に1頭目がすごく元気で陽気な子だったので、2頭目の大人しいお姫様タイプになったときは、戸惑いましたね。彼は、いままでで一番甘えん坊で、一番いたずら好きですね。どの子も外では世界一おりこうさんです。(笑)

通勤について
Q:家から職場まで、どのくらいかかるのですか?
A:電車を使って30分くらいですね。毎朝会う人はだいたい決まっているから、お馴染みの人が多くて、いろいろな人と会話を交わしながら通勤しています。

Q:例えばどんな会話?
A:「(盲導犬の)今日のお洋服が似合う」とか、「今日は靴をはかせないの?」とか「こっちの席、座れるよ」とか。「後ろに変な人がついてますよ。気を付けて!」って忠告してくれた人もいました。「変な人」というのは、協会の歩行指導員さんだったんですけれどね。(笑)

Q:指導員が変な人ですか?
A:その時、盲導犬が交代したところで、歩行指導員さんが通勤ルートの歩きを見てくれていたんです。忙しすぎて無精ひげを生やしちゃってた歩行指導員さんがよほど怪しげだったみたい。それ以来、「ちゃんとヒゲは剃ってよ」と頼んでます。(笑)

Nさんと盲導犬
Q:そもそも、なぜ盲導犬と歩きたいと思ったのですか?
A:友人のお母さんが盲導犬ユーザーで、初めて盲導犬に触らせてもらったんです。それまでなんか暗いイメージを持っていましたが、その盲導犬がとても陽気で、「あ、いいなぁ」と思ったんです。当時通学していた大学前の道が、白杖で歩くにはとても危険で、「盲導犬ならば楽に歩けるかも」と思って申し込みました。

Q:Nさんにとって盲導犬の歩きは?
A:思ったとおり、白杖では危ない道も安全に歩けるようになりました。迷っても「ちょっと戻ってみようか」と、Uターンしてやり直したりする余裕ができて、気楽なんです。一度、約4か月間、どうしても白杖で通勤しなくてはならなくなったのですが、朝の出勤だけで「もう仕事終わりだ」というくらい疲れてしまって。私には盲導犬との歩きがかかせません。

Q:約30年で変化を感じることはありますか?
A:まわりの人たちの意識が変わりましたね。例えば「盲導犬はお仕事しているから、邪魔をしてはだめだよ」と、お父さんやお母さんが子どもに話している声を聞くことが多くなりました。理解が広がっているなぁと思います。

Q:ご自身の変化は?
A:ここ2年くらいなんですが、スマホの音声ナビゲーションアプリがあって、それがすごく便利なんです。目的地まで案内するナビではなくて、今居るところの周辺に何があるか、その先に何があるかを説明してくれるんです。情報がぐーっと増えて、盲導犬との歩きの楽しさが広がりました。あちこち探検して楽しんでいます。私、新しいものが好きなんです。(笑)

Q:最後にNさんにとって盲導犬とは?
A:ずばり、相棒ですね。 どこにいくにも一緒ですから。

 取材の時は、職場の同僚のみなさんも、私たちをとても温かく迎えてくださいました。Nさんが席を外すときも、安心して盲導犬のお世話をまかせていけるとのこと。我が家でくつろぐような盲導犬の表情からも、みんなに見守ってもらっているのだと、よくわかりました。
 そして多目的トイレで汚さず手際よく盲導犬におしっこをさせたり、盲導犬に語りかけながら颯爽と歩く姿は、まさに一心同体でした。
 よく声をかけられるというNさんと盲導犬。楽しそうに歩いているその姿に声をかけたくなる気持ち、わかるなぁと納得しました。そしてそれこそが、とてもいい盲導犬の啓発になるのだと思いました。この度はお仕事中、ありがとうございました。

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