盲導犬クイール
クイールと一緒に
盲導犬を勉強しよう!
クイール誕生
1986年6月25日、クイールは5頭のきょうだいと共に産まれました。赤ちゃんのころの名前は「ジョナサン」。左足に、飛んでいるカモメのような模様があったからです。
お母さんのお乳をきょうだいと分けあいながら、5頭はすくすくと育ちました。
そして誕生から約50日後、人が大好きで落ち着きのあるジョナサンは、盲導犬になるため、パピーウォーカーに預けられる事になりました。
パピーウォーカーとの生活
人間とのきずなをより深いものにするため、ジョナサンのような盲導犬のタマゴたちは、産まれてから約2か月でパピーウォーカーというボランティアの家庭に預けられます。
ジョナサンは、パピーウォーカーさんから「クイール」(鳥のはね)というすてきな名前をもらいました。小さくてイタズラ好きなクイールは「クーちゃん」と呼ばれ、学校帰りの子供たちや商店街の人たちと大の仲良しになりました。
4キロほどだった体重が20キロを越えるころ、クイールは盲導犬訓練センターでの生活を始めます。
訓練センターでの日々
1才になったクイールは、ほかの16頭の犬といっしょに訓練センターで盲導犬になるためのトレーニングを始めました。
盲導犬のタマゴたちが教わるのは、人の言葉を聞くための「基本訓練(オスワリ、マテなど)」、目の不自由な方と安全に歩くための「誘導訓練」の2つです。
誘導訓練は、階段などの段差で止まる、交差点で止まる、障害物をよける、の3つが主なものです。でも、もともと遊びが大好きなラブラドールは、最初は訓練(お勉強)が好きではありません。だから訓練士は、犬のやる気をできるだけ引き出すために、色々な遊びを取り入れ、犬を「グーッド」とよくほめてやります。きびしいだけの訓練では盲導犬は育たないのです。
また、盲導犬になるためには「性格」も大切です。訓練士がどんなに頑張っても、10頭のうち盲導犬になるのは3~4頭です。素直で落ち着きのあるクイールは、盲導犬に向いていました。
共同訓練、そして盲導犬ユーザーとともに
4週間の共同訓練を終え、視覚に障害をもつ方のパートナーとしてデビューしたクイール。毎日のバス通勤はもちろん、散歩や山登りなど、どこにでもいっしょに行きます。その盲導犬ユーザーさんにとってクイールは、「ただ道を教えるだけではなく、いっしょにいるだけで気持ちを明るくしてくれる友だち」でした。
病気の進行により、ユーザーさんがクイールと一緒に生活できたのは2年間でしたが、2人はかけがえのないパートナーとして充実した日々を過ごしました。
引退・PR犬として
パートナーの渡辺さんの病気により、早くに引退したクイール。多くの人に盲導犬を知ってもらうため、PR犬として小学校やイベント会場を訪ねます。訓練士の言うことをよく聞き、障害物をよけ、交差点に止まるクイールを見て、会場には歓声があがります。「盲導犬ってすごい!」「頭がいいんだねー」。
こうして、学校で盲導犬について勉強し、クイールの実演を見て感動した子供たちが、やがて大人になり、クイールの後輩たちを支えてくれることでしょう。
旅立ち、それから
1998年7月20日、1歳まで育ててくれたパピーウォーカーの家族に見守られながら、クイールは天国へと旅立ちました。12歳と1か月でした。
クイールは亡くなりましたが、クイールの物語は本になり、教科書にのり、ドラマになり、映画となりました。クイールがいたから、盲導犬を知った人は多いと思います。
でも忘れてはいけないのは、ジョナサンがクイールになり、クイールが盲導犬になれたのは、盲導犬ユーザーをはじめ、繁殖犬飼育ボランティアやパピーウォーカーなど、じつに多くの人々の関わりがあったからです。クイールにたずさわったすべての人たちの想いが合わさってはじめて、クイールの物語が生まれたのです。
現在、国内で活躍する盲導犬は1000頭あまり。クイールの現役時代と比べて300頭以上増えています。これからも、クイールとその後輩の物語がずっと語り継がれますように。
クイール関連の書籍・映像紹介
- 『クイールはもうどうけんになった』(1992年/ひさかたチャイルド)
- 『盲導犬クイールの一生』(2001年/文藝春秋)
- テレビドラマ『盲導犬クイールの一生』放送(2003年/NHK)
- 『クイールを育てた訓練士』(2003年/文藝春秋)
- 『クイールへの手紙』(2004年/文藝春秋)
- 映画『クイール』(2004年/松竹)