読み上げブラウザ用メニュー

季刊誌「ハーネス通信」

2022年05月のバックナンバー

ここが知りたい! 盲導犬の訓練  キープレフトで歩く盲導犬(2022年新年号)  
 盲導犬はなぜユーザーの左側にいて、道路の左側を通行するように訓練するのでしょうか。今回は、「なぜ左側?」ということを深堀りします。



無題.png
【盲導犬がユーザーの左側にいるのは、なぜ?】
 世の中、右利きの人が多いので利き手が空いている方が便利だから、という説もありますが、実際のところはどうなのでしょうか。
 現在のような盲導犬の訓練が始まったのは、第一次世界大戦中のドイツでのこと。軍用犬の場合、人は右側に銃を持つため犬は左側につくように訓練するので、盲導犬も人の左側について歩くように訓練したのではないかと考えられます(ただし、日本にある11の盲導犬育成法人のうち、2法人はユーザーの左右どちら側でも歩くように訓練します)。
 なおドイツでは、1916年に盲導犬訓練施設が設立され、10年後には4000人もの盲導犬ユーザーがいたと言われています。

【左側通行がより安全なのは、なぜ?】
 日本では歩行者は右側通行が基本ですが、なぜ左側通行になるよう訓練するのでしょうか?
 盲導犬は、電信柱や店の看板、溝などの障害物を避けて歩きます。こういった障害物のある側に犬がいた方が、より確実に安全に避けることができます。そのため、当協会では犬は人の左側にいて、道の左側に寄って歩くように訓練します。
 また、盲導犬がユーザーの左側にいて、これ以上直進できない場所に突き当たったような時、右側通行をしていると盲導犬は左に向きを変えることになりますが(写真①)、左側通行を基本としていると、盲導犬は右に向きを変えます(写真②)。そうするとユーザーの前を遮るように進むので、より安全性が高まると考えられます。

【どうやって左側に寄って歩くように訓練するの?】
① 訓練初期
 パピーウォーキング中から散歩の時に道の左側を歩くようにしていますが、訓練ではより道の左側を意識して歩くよう、常に道の左端を歩きながら、犬の体をさわったりしてよくほめます。最初のころは、人が道の中央に出ようとするとついてくる様子が見られますが、やがて道の左側に寄ろうとする意識が出てきます。
② 中期
 道の左側に寄って歩くことを犬が学習してくると、曲がり角や障害物を回避した後に、顔を左に向け、入り込もうとする様子が出てきます。例えば、道の端に停まっている自動車をよけた後、すぐに道の左側に寄って歩こうとするようになります。
③ 後期
 人が道の中央あるいは道の端の方にハーネスを傾けても、道の左側をキープして歩くことができます。また、店舗の駐車場や敷地内など、左側に入り込めるスペースがあってもその中に入り込まず、直線をイメージして歩く方向が維持できるようになります。

☆ 訓練士のアプローチ
【訓練場所を選ぶ】
 どうやったら訓練犬が理解しやすいかを考えることは、訓練の大切なポイントです。そのために訓練士は、犬に学習させる課題に合わせて訓練場所を選んでいます。例えば訓練初期であれば、交通量や通行人が多い場所だと犬はそちらが気になって訓練に集中できません。そこで比較的静かで住宅街のように壁が続いているような場所で訓練して、左側に寄って歩くことを教えます。
【ヒントを出す】
 また、訓練犬にわかりやすいようにヒントを出してあげるのも、訓練の中で工夫するところです。例えば、訓練犬の顔の近くで訓練士が右手を大きく左側に押すような動作をすることで、犬は左に寄りやすくなります。
【よくほめる】
 もし、曲がり角などで訓練犬が左に顔の向きを変えた時には、即座にほめるようにします。たとえ偶然であってもほめることで、訓練犬はなぜほめられたのか、どんなことをしたら人が喜ぶのかを考えるようになります。
【ちょっと意地悪する?】
 どこへ行っても「左に寄って歩く」ことは、安全な歩行の基本的要素。段階的に場所を変えながら、時にはハーネスを押したり引っ張ったりして、左に寄りにくくなるような誘いをわざとかけます。ちょっと意地悪しているみたいですが、そんな訓練士とのやり取りの中で、よりしっかりと左に寄って歩くことを犬たちは学習していきます。

メニューを閉じる