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季刊誌「ハーネス通信」

2020年02月のバックナンバー

盲導犬ユーザーの職場を訪問 株式会社かんでんエルハートで ヘルスキーパーとして働く盲導犬ユーザー(2020年新年号)

身体障害者補助犬法は2008年に改正され、現在、従業員数45.5人以上の事業所では、補助犬の受け入れが義務化されています。しかし、実際には、補助犬がいることで就職活動がうまくいかなかったという話も聞きます。


 盲導犬ユーザーを雇い入れる場合は、どうしたらいいのだろう? そんな不安を感じている雇用者の声が聞こえてきそうです。
 当協会では、ユーザーが就職した際、希望に応じて
 ・通勤ルートの歩行指導
 ・職場内での盲導犬の待機場所についてのアドバイス
 ・盲導犬の排泄場所についてのアドバイス
 ・事業所からの相談等への対応・社内研修の実施
などのフォローアップを行っています。しかし、このような対応をしていることを雇用者の方々に知ってもらう機会はなかなかありません。
 このたび、ご縁をいただき、昨年10月、全国重度障害者雇用事業者協会大阪支部会議で当協会が行っているサービスについて報告する機会をいただきました。また、報告するにあたり、実際に盲導犬ユーザーが働いている職場の様子を教えていただこうと、樋尻博美さんの職場を訪問し様々なお話を伺いました。
 昨年9月に伺ったのは、関西電力(株)の特例子会社として1993年12月9日に設立された(株)かんでんエルハート。現在、全従業員164名(2019年4月1日現在)の内、7名の視覚障がい者が産業マッサージを行うヘルスキーパーとして勤務されています。
 樋尻博美さんは平成7年に雇用され、入社3年目に盲導犬を取得。現在は3頭目の盲導犬ティップと通勤し、主査としてヘルスケアマッサージや、関西電力の事業所に赴いてセルフケア講習会を担当されています。
 今回、大阪市北区の京阪電鉄中之島線の終点「中之島駅」近くの中之島プラザ11階にある樋尻さんの職場を訪問し、樋尻さんと、企業在籍型職場適応援助者である、同社の上林康典さん、黒田恭子さんにお話を伺いました。
樋尻さんが盲導犬を持ちたいと思ったきっかけは?
樋尻さん:生まれつき全盲の私は、幼稚部から就職するまで盲学校で学びましたが、在学中は送迎バスなどがあって、歩行に不自由していませんでした。しかし社会に出て単独歩行の困難を強く感じるようになった頃、盲導犬ユーザーの友人の話で興味を持ちました。彼女の紹介で関西盲導犬協会での体験歩行を受けてみて、ぜひ欲しいと思うようになりました。
樋尻さんが盲導犬ユーザーとなった時に、会社として特に配慮されたことはありましたか?
上林さん:特にないです。強いて言えば、盲導犬を持つための訓練(1頭目の時の共同訓練は約4週間)に時間がかかるため、本人が長期休暇を取ったことでしょうか。その間、職場で一人分をカバーするため負担は大きくなりますが、幸い、わが社はヘルスキーパーを担当する社員が複数いるのでなんとかやりくりできした。
 日々のことは、犬のトイレも食餌も、管理はすべてユーザーがやりますから、盲導犬のために特別なことはしていません。会社は犬舎を置くスペースを作ったくらいですよ。
盲導犬を持ち始めた頃、何か不安に感じていたことはありますか?
樋尻さん:日常の排泄場所をどこにするかという心配はありましたが、今は従業員用トイレか、非常口のスペースを使っています。社内での受け入れについては、みなさんが喜んで受け入れてくださったので安心しました。当時の上司が関西盲導犬協会の訓練センターに見学に行き、資料を作って職場で説明しておいてくれたことも役立ったのだと思います。セルフケア講習会等で、本社や他の事業所へ行くこともあるのですが、盲導犬はいつも大歓迎で、逆に連れて行かないと、がっかりされてしまうことも(笑)。
白杖歩行から盲導犬歩行に替わった樋尻さんを見ていて、何か違いを感じましたか?
上林さん:樋尻さんが、「白杖は触覚的な歩行だから物にぶつかることが基本。でも盲導犬は視覚的歩行だから、風を感じて歩ける」とよく言っているのですが、ぶつかりながら歩いていた人が、颯爽と風を切って歩けるようになる... それがユーザー自身の生き方を変えるのだと、樋尻さんを見ていて実感しています。
 従業員が意欲を持って行動範囲を広げ、地域社会で活躍することが、職場によい空気を送り込むことにつながっていると思います。
盲導犬受け入れ実績をお持ちの事業所として、これから採用を考えておられる方に何かアドバイスするとしたら?
上林さん:盲導犬ユーザーの就労を躊躇するという考え方があるというのはショックですが、私はむしろ逆だと思っています。歩行が安全で、盲導犬を管理できる責任力と能力があることは、大きなセールスポイントだと思うのです。
 また盲導犬は職場を明るくしてくれる大切な仲間になるはずです。いつも思うのですが、170人いるわが社の社員の中で、文句も言わず、静かにいうことを聴くティップは、一番いい社員ですよ(笑)
中には「盲導犬ユーザー」だからではなく「重度視覚障がい者」だから雇用が難しいと考える事業所もあるようですが...
上林さん:結局のところ、「障害」は、会社の中にあると考えています。障がい者が持っているのでなく、会社ががんばらないといけない問題です。例えば、車いすを利用する社員がいれば、車いす用のトイレやエレベーターを作ってきました。必要な設備がない環境に車イス利用者が合わせていく、という考え方はしません。盲導犬のこともそうです。本人には働く能力があるのに、会社側が盲導犬同伴を理由に就労を拒絶するのは、会社側に課題があり、それを取り除かねばなりません。障がい者雇用は福祉課題ではなく労働分野の課題だと思うのです。

御社は樋尻さんを含め、重度視覚障がい者を3名雇用されていますが、課題はありますか?
上林さん:わが社のように重度視覚障がい者をすすんで雇用している会社は珍しいと思います。わが社が感じていた「雇用してみると、意外に安全面の心配がないし、ヘルスキーパーは時代にマッチして必要性が高い」ということが、今は広く知られています。そんな中で一つ解決されていない問題があります。それは、「重度視覚障がい者の職域を広げるのが難しい」ということです。以前あった電話交換という職種はもうほとんどないですし、パソコンなどを使った事務系のルーティンワークは、海外にアウトソーシングされています。日本に残っているのは、プランニングなどのマルチタスクな仕事が中心です。マッサージは身体が資本の肉体労働ですから、体調を崩したり、加齢により継続が難しくなってきた時に、就労継続をどうするか、その準備をしておかねばなりません。そのための職域開拓は、企業が取り組むべき全国的な課題とも言えるでしょう。
*貴重なお話を聴かせていただき、ありがとうございました。
文/古橋悦子(フリーライター)
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