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盲導犬を知る

盲導犬の歴史

ここでは、世界と日本での盲導犬育成の歴史をご紹介します。後半では、盲導犬に関する法整備についても詳しく書かれてありますので、ぜひご一読下さい。
※なおこの文章は、当協会職員が執筆協力し、(社福)日本盲人社会福祉施設協議会リハビリテーション部会(当時)盲導犬委員会発行の冊子に掲載されたものを一部抜粋しています。

海外での育成の始まり

視覚障がい者が犬と歩くことは、2000年も昔からあったようです。西暦79年、ヴェズヴィオ火山の噴火で灰に埋もれたことで有名な古代都市ポンペイの遺跡からは、視覚障がい者らしい人が犬と歩く姿が描かれた壁画が見つかっています。この絵は、13世紀に描かれた「黄河」というタイトルの中国の絵巻物ですが、中央やや下部分に、犬に連れられた視覚障がい者とおぼしき人物が、杖を持って歩いているのが見られます。

時代はかなり飛びますが、1819年、ウィーンのヨハン=ウィルヘルム=クライン神父はその著書の中で、視覚障がい者が安全に歩くための方法として、犬の首に杖のようなものをつけて歩く方法や、視覚障がい者自身が障害物を避けたりドアを見つけたりすることを犬に教え、実際に生活していた様子についても書いています。

しかし、現在のように盲導犬の育成が社会福祉事業として取り組まれるようになったのは、毒ガス等により数千もの兵士が失明した、第一次世界大戦中のドイツでのこと。1916年にはオンデンブルグに盲導犬訓練学校が設立されました。1927年頃には、ドイツ国内で4000人もの盲導犬ユーザーがいたと言われています。1928年にはイタリアにも盲導犬育成施設が設立されました。

同じ頃、スイスで使役犬の訓練所を開設していたアメリカ人、ドロシー=ハリソン=ユースティス夫人は、ドイツで行われていた盲導犬育成の様子をアメリカの「サタデー・イブニング・ポスト」紙にレポートしました。その記事に対する反響は大きく、その後、彼女はみずから盲導犬を訓練し、モリス=フランク氏というアメリカ人に提供しました。ユースティス夫人はスイスから帰国した後、アメリカに盲導犬訓練施設を創るために努力し、現在アメリカで最大級の盲導犬訓練施設、シーイング・アイを設立しました。また、イギリスでも、同じ記事を読んだイギリス人の中からイギリスに盲導犬事業を興そうと考えた女性たちの活動により、盲導犬が育成されるようになりました。

このようにして、盲導犬育成事業は少しずつ、世界各国に広まってゆきました。現在、国際盲導犬連盟(International Guide Dog Federation = IGDF)という国際組織があり、アメリカ、カナダ、オーストリア、ベルギー、クロアチア、チェコ共和国、フィンランド、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、オランダ、ノルウェイ、ポルトガル、スロバキア、スペイン、スェーデン、スイス、イギリス、イスラエル、南アフリカ、オーストラリア、ニュージーランド、日本、韓国、台湾の27カ国83団体が加盟しています(2014年5月現在)。

加盟していない盲導犬育成施設でのユーザー数も含めると、世界の盲導犬ユーザー数は、おそらく約25,000人以上はいるのではないかと推測されています。

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日本での育成の始まり

日本では、1938(昭和13)年、アメリカ人の盲導犬ユーザー、ジョン=ゴードン氏が観光旅行で来日し、各地で講演会が開かれたことがきっかけとなり、その翌年には、日本シェパード犬協会の人たちが中心となって、ドイツから4頭の盲導犬を輸入し、陸軍病院で再訓練した後で傷痍軍人に渡しました。しかし、その後戦争が激しくなり、盲導犬の育成は日本では続きませんでした。

第二次世界大戦後、塩屋賢一氏(後にアイメイト協会を創設)は、試行錯誤の末、日本人として初めて盲導犬の訓練に取り組みました。そして1957(昭和32)年、ジャーマン・シェパード犬のチャンピィを盲導犬として訓練することに成功し、チャンピィの所有者であった河相洌氏(当時、滋賀県立彦根盲学校教諭)が国産第一号の盲導犬のユーザーとなりました。

その後盲導犬育成事業を行う団体が設立され、現在国家公安委員会の指定を受けた団体は11団体になりました。盲導犬ユーザーの人口も少しずつ増え、1994(平成6)年には、全日本盲導犬使用者の会が設立されました。育成団体の垣根を越えた盲導犬ユーザーの団体として、交流・啓発事業を行っています。

1995(平成7)年には、これまでほぼ活動が休止状態であった全国盲導犬協会連合会を発展的解消し、各盲導犬育成団体の相互協力機関として、全国盲導犬施設連合会が設立され、2008(平成20)年にNPO法人、2011(平成23)年に認定NPO法人となりました。

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盲導犬への社会的理解の広がりと法的整備

道路交通法
1978(昭和53)年12月1日、道路交通法が改正され、盲導犬に関する保護条例の規定がなされました。道路交通法第14条では、「目が見えない者は、政令で定める杖を携え、又は政令で定める盲導犬をつれていなければならない」と規定され、同施行令第8条では、「盲導犬は、国家公安委員会が指定した訓練施設において訓練を受けたもの」とされています。盲導犬ユーザー本人が、ハーネスをつけた盲導犬とともに歩いている時、車の運転手は徐行、又は停止するように義務づけられました。
通達等

盲導犬に対する社会への認識は、1970年代に入って徐々に広がってきたといえます。国鉄は、1969(昭和44)年より盲導犬の無料乗車を試行してきましたが、1973(昭和48)年旅客営業取扱基準規定の一部を改正し、全国的に盲導犬同伴での乗車を認めました。

以後、
  • - 1973(昭和48)年 建設省通達「身体障害者の入居に係る公営住宅の管理について」
  • - 1978(昭和53)年 運輸省通達「盲導犬を連れた盲人の乗合バス乗車について」
  • - 1980(昭和55)年 環境庁通達「国民宿舎等休養施設の管理運営について」
  • - 1981(昭和56)年 厚生省通達「旅館、飲食店等の環境衛生関係営業について」
  • - 1991(平成03)年 運輸省通達「身体障害者のホテル・旅館等の利用について」
といった通達の中で、盲導犬を同伴した視覚障がい者の利用の円滑化を図っています。
また、1977(昭和52)年4月には、盲導犬ユーザーが初めて国会に入り、傍聴を許されました。2007(平成19)年11月には、盲導犬ユーザーが叙勲を受け盲導犬とともに皇居宮殿での授章式に出席しました。
盲導犬への社会理解の広がり

上記のような通達によって、盲導犬への社会の受け入れは拡大の方向に向かっていきましたが、各省庁の通達は法的な拘束力を持つものではなく、他の客からの苦情や衛生面に不安があるのではといった誤解から乗車拒否や盲導犬の同伴を拒否されるケースは少なからずありました。

その一方で、たとえば1966(昭和41)年日本航空が試験的に東京から大阪まで、3人の盲導犬ユーザーを初めて乗せましたが、この時は飛行機への搭乗の際、口輪の装着が義務付けられました。しかし、1981(昭和56)年、航空各社は盲導犬が飛行機に乗る際、口輪装着を「義務」から「原則」へと緩和することを決定し、1984(昭和59)年には「口輪装着は必要ない」とされました。また、運輸省も、1986(昭和61)年、乗り合いバス乗車の際に「盲導犬には口輪の装着を必要としない」との通達を出しました。

お願いから権利へ

盲導犬育成事業は、1979(昭和54)年に「障害者社会参加促進事業」の一つとして、1990(平成2)年には「障害者の明るいくらし」促進事業の一項目として取りあげられるようになりました。

2001(平成13)年、社会福祉基礎構造改革により、社会福祉関連法に初めて盲導犬育成事業が明文化されるようになりました。新たに改正された「身体障害者福祉法」では、「身体障害者社会参加支援施設」の一つとして「盲導犬訓練施設」を明記しています。

2002(平成14)年、「社会福祉法」では「盲導犬訓練施設を経営する事業」を「第二種社会福祉事業」と定義。また、「障害者基本法」では、「国及び地方公共団体は」「補助犬の給付又は貸与その他」必要な施策を講じなければならないこと、「補助犬の育成等」を促進しなければならないこと、公共的施設を利用する障害者の」補助犬の同伴について「障害者の利用の便宜を図らなければならない」としています。

2002(平成14)年には、「身体障害者補助犬法」が成立、一部施行、1年後に全面施行となりました。この法律は、盲導犬・聴導犬・介助犬を「身体障害者補助犬」といい、公共交通機関や公共施設、デパート・飲食店といった不特定多数の者が利用する施設等で、補助犬の同伴拒否を禁止し、身体障害者の自立および社会参加の促進を目的に施行されました。

また補助犬ユーザーの権利を守る一方、「医療提供者、獣医師等との連携を確保しつつ、身体障害者の状況に応じた訓練を行うことにより、良質な身体障害者補助犬を育成すること」といった補助犬を育成する訓練事業者の義務、「身体障害者補助犬が他人に迷惑を及ぼすことがないようその行動を十分管理しなければならない」ことの他「補助犬であるという表示」「補助犬健康管理手帳」の携帯といった補助犬ユーザーの義務も定めています。

2005(平成17)年には補助犬法の見直し作業が始まり、2008(平成20)年にはその一部が改正され、都道府県・政令指定都市・中核市での相談窓口の設置、職場(従業員50名以上の事業所)での受け入れが義務化されています。詳しくは、こちらをご覧ください。

2006(平成18)年12月には、国連総会において、あらゆる障がい者への差別をなくし、その尊厳と権利を保障するため「障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)」が採択されています。日本政府は、障害者基本法改正、障害者総合支援法、障害者虐待防止法、障害者差別解消法の成立など、徐々に国内法の整備を進め、2014(平成26)年1月、批准しました。

障害者権利条約 第9条 アクセシビリティに関する条文の中で、締約国がとるべき適切な措置の一つとして、「(e) 公衆に開かれた建物その他の施設〔設備〕のアクセシビリティを容易にするためのライブ・アシスタンス〔人又は動物による支援〕及び媒介者(案内者、朗読者及び専門の手話通訳者を含む。)のサービスを提供すること。」としています。

また、2013(平成25)年に成立した「障害者差別解消法」は、障がいのある人に対して平等な権利を保障するために制定された法律です。障がいを理由に制限を課したり、車いすや盲導犬、介助者がいるなどの理由で区別や排除をする、といった障がいによる不当な差別的対応などを禁止し、障がい者にとって社会生活上、困難な状況を作り出している設備や制度、慣行などを除去し合理的配慮を行うよう明記しています。

このように、障がいのある人もない人も共に住みやすい社会づくりのために、様々な法律が整備されてきています。まだまだ障がいがあることでイヤな思いをしたり困ることが、私たちの社会の中には少なからずあります。これらの法律を活かすためにも、私たちが主体的に考え、行動することが求められています。

以上です。お読みいただきありがとうございました!

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