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季刊誌「ハーネス通信」

2023年04月のバックナンバー

ここが知りたい! 盲導犬の訓練 その6(2023年春号)
 いよいよ 盲導犬デビュー ~共同訓練ってなに?~
これまで「ここが知りたい! 盲導犬の訓練」シリーズで一つひとつ犬の訓練についてクローズアップしてきましたが、いよいよ総仕上げ「共同訓練」です。いったいどんな訓練なのでしょうか?


3週目繁華街歩行hp.jpg
Q:なにが「共同」なの?
A:人(訓練生)と犬(候補犬)の共同です。目が見えない・見えにくい人と、盲導犬候補犬のペアが決まり、ともに生徒となって学ぶ訓練...という意味です。共同訓練の先生は、盲導犬歩行指導員です。共同訓練を通して、候補犬と訓練生は、盲導犬とユーザーというひとつのユニットとなっていくのです。

Q:共同訓練って、自動車教習所みたいな感じ?
A:歩くことも学びますが、一緒に生活することも勉強しなければなりません。なので、基本は盲導犬協会に泊まり込み、宿泊室で共同生活をします。だから教習所とは違い、24時間すべてが訓練と言えるかもしれません。共同訓練の期間は、初めて盲導犬を持つ方ならおおよそ4週間、すでに盲導犬ユーザーとしての経験がある方は2週間が目安です。

 では、初めて盲導犬を持つ方の場合を例にして、共同訓練の進め方を簡単にご説明します。

【共同訓練の内容~新規ユーザーの場合~】
<第1週目>
 初日は、共同訓練開始式でスタートします。これからともに歩き、生活することになる訓練生と候補犬との出会いは、少しギクシャクしながらも「初めまして、どうぞよろしく・・・」という感じでしょうか。でも、開始式が終わった後の訓練は、まずは訓練生だけで行います。部屋の配置や階段の位置など館内の地図を頭に入れ、館内を一人で移動できるようにします。
 そして2日目か3日目ぐらいからは候補犬と同じ部屋で過ごしながら、食事や排せつの世話などを通して、24時間ともに生活することに慣れていきます。

●基本訓練
 ハーネスなしで、「シット」「ダウン」など犬に指示を出す方法を学びます。指示を出すタイミングやほめ方など、ユニットとして息を合わせていくための基本です。
●歩く訓練のはじまり
 犬と歩く前に、ハーネスを通した犬の動きを学びます。これを「ハンドルワーク」といいます。指導員がハーネスを持って、犬が動いているかのようにハーネスを動かします。
 そして、いよいよハーネスをつけた犬と歩きます。まずはひたすらまっすぐな道を、左側に寄って歩きます。犬との歩きに慣れてきたら、少しずつスピードの変化をつけていきます。また、歩道と車道の段差の発見や、道路を横断するための安全確認や、道路横断の方法を学びます。
●講義もスタート
 夕方には講義があります。講義の内容は、「ブラッシング・歯や耳の手入れ」「犬の健康管理」といった犬のケアや「カーミングシグナル」など犬のことをより理解するためのもの、また、「ユーザーとしてのマナー」「ヒヤリハットの事例」「災害対策」「盲導犬に関する歴史や法律」など、ユーザーとして知っていなければならないことは多岐にわたり、それぞれの内容に合わせて職員が講師になります。

Q:カーミングシグナルってなに?
A:犬独特のしぐさから、犬の気持ちを知ることです。例えば、首を掻いたり、あくびをしたりする時には、犬は緊張していることが多いのです。言葉を発しない犬の気持ちを推測することが、人と犬のコミュニケーションを深めることに役立つのです。

Q:他にどんな講義があるの?
A:先輩ユーザーから体験談やアドバイスなどを聴く講義は、盲導犬ユーザーとなってからの生活にとても役に立ちます。また盲導犬がどのように生まれ、育てられてきたのかということや、たくさんのボランティアさんに支えられていることなどについても講義の中でお話ししています。

<第2週目>
 歯みがきやブラッシングなど、日々欠かせない犬のケアについて学びながらスキンシップを深めていくことにより、少しずつ訓練生と候補犬、お互いのリズムも合ってきます。また、歩行訓練の内容も少しずつ難易度があがっていきます。
●道路横断
 歩道のある道路だけでなく、歩道と車道の区別のない道を歩くことや、曲がり角や交差点を見つけること、そして安全に横断することを練習していきます。また、まっすぐ渡るだけでなく、交差点での右左折やそのための手順についても学びます。
●障害物回避
 道を歩いていると、電柱や止めてある自転車など、よけなければいけない物がいろいろあります。そういった障害物をよけて歩く犬の動きに合わせて歩くことも練習します。

<第3週目>
 後ろをついて歩いている指導員の様子を気にしていた候補犬も、だんだん訓練生の指示によって歩くようになってきます。歩行訓練はより実践的になり、課題が増えて忙しくなります。生活面では、日頃のケアだけでなく犬のシャンプーの方法も学びます。
●繁華街での歩行
 訓練で歩く場所が、静かな住宅街からだんだん人の多い繁華街などに移っていきます。電車やバスを利用したり、ショッピングセンターや駅などでエスカレーターや階段の昇り降りの練習をします。
 また、歩くことだけでなく、お店や車内でどんなふうに犬を伏せさせたりしたらよいのかなど具体的な犬の扱い方についても学びます。
●夜間歩行
 昼と夜とでは、人や車の交通量など状況も違ってきます。また訓練生の中には、昼と夜とでは見え方が大きく変わる人もいます。そういった変化を知り、安全に歩くために夜間に歩行訓練を行います。

<第4週目>
 いよいよ共同訓練修了が間近となり、盲導犬ユーザーになってからの外出をイメージしながら訓練の総仕上げとなります。通勤や通学、日々の買い物や通院など、人によって出かける目的も場所も様々。候補犬にとっては初めての場所ばかり。そして訓練生にとっては、初めての盲導犬との生活です。家に帰ったらどんな生活になるのか? 不安なこともあるでしょうし、共同訓練のゴールに向けて緊張感も高まります。生活面では、帰宅後もしっかりと犬のケアが継続できるよう再確認していきます。
●目的地まで行く訓練
 交通機関の利用も含め今まで習ったことを活かして、指導員のサポートに頼らず、ユニットだけで安全に目的地に行けることを目指します。
 また、ユニットだけで目的地を目指すだけでなく、時にはまわりの人にお手伝いをお願いする方法も学び、より安全で快適に移動できるよう実体験を重ねていきます。

<出発式 盲導犬認定>
 すべてのカリキュラムを終え、実技試験と筆記試験に合格すれば、共同訓練は修了です。新しい生活へと踏み出す「出発式」では、運転免許証のような「盲導犬使用者証」・盲導犬の証となる「盲導犬」の表示プレート・盲導犬につけるナンバープレート・身体障害者補助犬健康管理手帳が授与されます。

 盲導犬は、ハーネスをつければ誰でもすぐに歩ける、というものではありません。その前に、共同訓練でたくさんのことを学び、時間をかけて歩けるようになっていくのです。
 今回は、基本的な共同訓練の一部を簡単にご説明しました。実際には、人の年齢や体力、生活スタイル、住む場所、犬の性格・・・ 人によって犬によって、それぞれ内容は変わります。共同訓練を担当する指導員は、そのユニットに最もふさわしい共同訓練となるように計画していきます。

<共同訓練 ある日の様子>
7:00 候補犬の排泄と食事
7:30 訓練生の朝食
9:00 午前の歩行訓練
12:00 訓練生の昼食
13:30 候補犬の排泄後、午後の歩行訓練
16:30 候補犬の食事・排泄・ブラッシングなど
17:30 講義
18:30 訓練生の夕食
21:00 候補犬の排泄

 記事と合わせて動画でもご覧いただけます
 共同訓練を修了したユーザーの出発式の様子や思いを動画にまとめています。
 「出発式~共同訓練を修了し、新しい生活がスタートするユーザーと盲導犬~」
 https://youtu.be/lfTEG-PN5FA

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