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季刊誌「ハーネス通信」

2022年10月のバックナンバー

ここが知りたい 盲導犬の訓練その4(2022年秋号)
いつもはあまり無意識せずに歩いている道。改めてよく見ると、電柱やお店の看板、商品をのせているワゴン、路上駐車の自動車や自転車など、道にはいろいろな障害物があります。今回は、「障害物をよける」という盲導犬のお仕事について深掘りします。




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 これまでの「ここが知りたい! 盲導犬の訓練」では、「道の左側によって歩く」「段差で止まる」という盲導犬のお仕事をご紹介しました。今回の「障害物をよける」というお仕事は、人の指示通りに動くだけでなく犬が自分で考えなくてはならない、よりハイレベルなお仕事とも言えます。
 いったい何がハイレベルなの? それをどうやって犬に教えるの?? などなど、知りたくなりますよね! それでは順番にご説明いたします。

なぜ「障害物をよける」ことが難しいの?
 それは、犬自身だけでなく、隣にいる人の幅と高さを考えなくてはいけないからです。普通の犬でも、よほどの事情がないかぎり、自分からモノにぶつかったり、穴に落ちたりはしないでしょう。それは人でも同じです。自分がぶつからないように、落ちないように歩きます。
 では、ここで、あなたが目の不自由な人を手引きして一緒に歩いていることを想像してみてください。あなたが二人分の幅を考えずに歩いてしまったら、どうでしょう。あなたはすり抜けられても、手引きを受けている人は止めてある自転車にぶつかって自転車をナギ倒してしまうかもしれません。あなただけがぶつからなくても、街路樹の枝で頭をぶつけてしまうかもしれません。
 盲導犬は、隣にいるユーザーがぶつかったり、落ちたりしないように、「このくらいなら、頭をぶつけないな」とか「この幅だと、通れないな」とか考えて、立ち止まったり、よけて歩いたりします。たとえユーザーが「まっすぐに行きなさい」と指示しても、「ここは、通れる幅が一人分しかないから、まっすぐには進めない」と判断するのです。そこが難しいポイントなのです。

どうやって障害物を教えるの?
 このようにハイレベルなお仕事ですが、きちんと順番を間違えずに教えていけば、ゲーム感覚で楽しくできるようになります。その魔法のステップは次のとおり。

* ステップ1 道の左側に寄って歩く
 『ハーネス通信』2022年新年号でお伝えしたように、盲導犬は道の真ん中ではなく、左側に寄って歩くのが基本です。まずはそこをしっかり繰り返し教えます。

* ステップ2 障害物をよけたら、道の左側へ寄る
 目の前に障害物があれば、その障害物の右側にまわってよけ、よけ終わったらすぐ道の左側に戻るように教えます。最初は訓練士が動きと言葉で犬が左側に戻るように促し、徐々に犬が自発的に戻るようにしていきます。

* ステップ3 障害物を意識する
 電柱や置いてある自転車など障害物は、道の左側だけでなく、時には右側にもあります。どちらに障害物があったとしても、よけなければいけないものを意識させるようにします。そのために訓練士は音をたてて障害物を触ったりして、犬が障害物を見れば、すかさずほめたり、クリッカーを鳴らしフードを与えたりします。こうした訓練を繰り返すことで、犬は障害物を意識して見るようになります。

* ステップ4 人の幅を考える
 「犬だけなら通れるけど、人が一緒だと通れない」といった狭い所では、まず犬にそのことを意識させ、どう行動すればよいのかを教えます。しかし、盲導犬ユーザーが道の状況を見て「こっちによけて」といった指示を出すことはできません。そこで、人の指示通りに動くだけでなく犬が自分で考えるよう訓練を進めます。
 例えば、犬が「まっすぐ行きなさい」の指示通りに狭いスペースを直進しようとした時、訓練士は犬を叱りませんが、ほめもしません。犬は「なぜほめてくれないの? どうしたらほめてくれるの?」と戸惑い、別の行動をとろうとします。そして狭くなっているところをよけようとした時に、犬をよくほめます。犬はほめられるとうれしくなって、もっとやろうとします。
 次第に、そのまま進めるのか、よけた方がいいのか、もっと微妙なスペースのある障害物など、障害物にいろいろ変化をつけていきます。こうしてさまざまな状況に対応できる多様性が身につくよう、ゲーム感覚で訓練を進めていきます。

* ステップ5 高さを考える
 「犬は当たらないけれど、人は当たってしまう」という高い位置にある障害物も、よけるように訓練します。街中でよくあるのが、トラックのサイドミラーやお店の看板などです。犬の目線からはかなり高いです。しかしステップ4と同じように、まずは犬に意識を向けさせ、次にそれをよけて歩くことを促し、犬が正解の行動をとった時に褒める、ということを繰り返します。

* ステップ6 障害物が動く?!
 他にもいろいろな障害物があります。たとえば「動く障害物」。同じ方向へゆっくりと歩く人は、よけなければならない障害物です。無理にスピードをあげて追い越すのではなく、時にはゆっくり歩く人にあわせてスピードを落として歩くよう訓練します。

 実際に街に出ると、幅、高さ、動き、様々な要素の障害物があり、どう判断して動けばいいのかとても複雑に思えます。けれどハイレベルなお仕事の基本も実は意外とシンプル。横にいる人の幅と高さを考えて、左側に寄って歩くことなのです。

訓練士に聞いてみた:よけることを教えるコツは?
 犬に正解を教えてしまうのではなく、正解を犬に考えさせるようにすること。そうすれば、盲導犬となってから初めての環境に行っても、自分で判断できるようになります。そんな「考えさせる」訓練は、犬にとって楽しい時間であることが大切。だから犬をよく観察して、その犬が夢中になることを訓練に取り入れることがコツなんです。

盲導犬ユーザーに聞いてみた:障害物エピソード
 近くに買い物に行った帰り道、路上駐車の車を何台もよけているうち、方向がわからなくなったんです。よく知っている場所なのに、立ち尽くしてしまいました。すると「あんたの家、こっちやで」という救いの声が! この時は親切なご近所さんのおかげで助かりましたけど、障害物が多いとホント困るんですよ。

さいごに
 障害物をよけて歩くことは、盲導犬の大事なお仕事の一つです。ただ、障害物がない歩道の方が、断然安全ですし、より快適に歩けます。目が見えている人だって、障害物がない歩道の方が歩きやすいのではないでしょうか。
 「盲導犬は障害物をよけて歩くよう訓練しているから大丈夫」ではなく、私たち一人ひとりが道に障害物となるものを置かないなど、誰にとっても快適な歩行環境を考え、実行していけたらいいですね。

障害物をよける訓練の様子を動画にまとめました。記事と合わせてご覧ください。
関西盲導犬協会YouTube   
『ハーネス通信連動企画 障害物をよけて歩く訓練のコツは?』
 通常版 https://youtu.be/-eGxCWOtzgM
 音声版 https://youtu.be/WmTKZlMwA28

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