2013年新年号で「世界の盲導犬事情」として台湾の盲導犬事情をお伝えしました。今回はその第2弾、北欧フィンランドについてお届けします。
皆さん、「フィンランド」と聞かれて、まず何を思い浮かべますか? サンタクロース? ムーミン? オーロラ? いやいや「胎内から老人まで」と言われる手厚い福祉の国? 遠く離れたフィンランドですが、さまざまなイメージを思い浮かぶことができる、私たちにとってなじみ深い、魅力的な国の一つではないでしょうか。
今回は、この寒い寒い北国の盲導犬事情はどうなっているのか、ご紹介しましょう。
フィンランドには、首都ヘルシンキを本拠地としているフィンランド盲導犬協会と、4~5年前に北部にできた協会の2協会があります。全体で年間35頭が育成されており、その内の25頭がフィンランド盲導犬協会で育成されています。
フィンランド国内には、約250人の盲導犬使用者が暮らしています。250人と聞くと少ないようですが、人口約550万人のフィンランドで100万人あたりの盲導犬使用者数は約50人。これは日本の約6倍にあたります。もし日本の盲導犬普及率がフィンランド並みになったとすると、日本の盲導犬使用者は6000人ぐらいになると考えられますから、フィンランドの盲導犬使用者数はかなり多いと言えそうです。さすが「福祉の国」といわれるだけのことはありますね。
きめ細やかな福祉を提供するこの国では、盲導犬を育成することも、盲導犬を使って生活することも、政府が実施するさまざまな福祉政策の一つであり、盲導犬の育成に係る費用は100% 政府から出されています。盲導犬使用者の金銭的負担も無く、盲導犬のフード代から医療費まで、全て税金でまかなわれているのです。
それでも、盲導犬育成のための費用は潤沢ではなく、なんとかギリギリ運営できる程度だそうです。しかも、日本と違い募金活動や遺贈などの方法での資金獲得は一切認められていません。ただし、凍結精子の採取・保管活動など、特定の使途に限った収益事業は認められているそうです。
フィンランドでは、なぜ盲導犬育成費用から盲導犬使用にかかる費用まで、すべて政府が負担しているのでしょうか。それは、政府が盲導犬事業を全額負担したとしても、結局、その方が費用は安く抑えられ国の財政を助けることになると考えているからのようです。もし盲導犬の代わりにガイドヘルパーを毎日提供することになれば、それこそ盲導犬育成に係る費用よりもさらに多くの費用がかかる、というわけです。
フィンランドの歩行環境はどうなっているのでしょうか。
フィンランドは、首都ヘルシンキ以外に大きな都市はありません。盲導犬使用者の多くは、こじんまりとした街の住人であり、その街はショッピングセンターを中心とした住宅街になっています。そのため、ほとんどの盲導犬使用者が、区画整理された町並みや、歩きやすい歩道の整った環境の中で暮らしています。フィンランドという国自体が新しく、近代的な都市開発に基づいて作られたから、このような歩行環境が可能になっているようです。
また、歩きやすいのは町並みだけではありません。視覚障がい者に対する一般市民の意識も高く、例えば、歩行者用の信号のない横断歩道が多いところでも、盲導犬使用者が横断歩道に近づくと、車は必ず止まるとのこと。これは、盲導犬だけでなく白杖を持って歩いている場合も同じです。ハード面だけでなくソフト面でも視覚障がい者が安心して歩ける環境が整っているようです。
このような環境の中で行われる盲導犬の訓練に、日本との違いはあるのでしょうか。
日本よりも区画が広く犬の直進性と誘導力が重視されるので、訓練では速いスピードで長い距離を歩くことにウェイトが置かれているそうです。また、日本での訓練内容と比べると、上りの段差で止めない、指符(指を使って指示をすること)をしない、エスカレーターを利用しない、といった違いがあります。上りの段差で止めないことについては、犬の直進性を重視するためという理由からのようです。
訓練車両に車のエンジンとは独立した動力源を持つヒーターが搭載されているのは、寒い国ならではの工夫と言えそうです。このおかげで、車内で訓練の順番を待つ犬たちも快適に過ごせ、犬にもやさしい環境づくりがなされています。
また、日本と大きく違うのは、ペット犬も公共交通機関を利用できること。EU加盟国の間では、ペットパスポートを持っていれば、飛行機の客室に犬を乗せることも許されています。パピーの社会化の機会は多いようです。
このように、さまざまな点で一歩先ゆくフィンランド。福祉国家のなせる技だと思われますが、訓練士・指導員が、訓練と共同訓練に集中できる環境づくりを実践していることは見習うべき点だと感じられます。我々も改善できるところは改善し、優れた盲導犬をより多く提供できるよう頑張りたいと思います。