季刊誌「ハーネス通信」
2013年08月のバックナンバー
- キャリアチェンジ犬のそれから・・・(2013年夏号特集)
- 訓練の過程において盲導犬には向かないと判断された犬は、その後、どのような生活をしているのでしょうか?
盲導犬になるという目標からキャリアチェンジ(進路変更)をして、それぞれの個性にあった環境のもとで暮らすことになります。
ほとんどの犬たちは、キャリアチェンジ犬を飼育してくださるオーナーさんのご家庭で家庭犬(ペット)として暮らすことになりますが、なかには、啓発活動の場でデモンストレーションなどを行うPR犬になる犬もいます。
今回は、それぞれの生活を送る3頭のキャリアチェンジ犬たちを紹介いたします。フラッグ
今から2年前のこと。滋賀県にある小学校のお便りに「ありがとう、フラッグ」という記事が掲載されました。それは、毎日通学中の子どもたちを見守ってきたキャリアチェンジ犬フラッグの死を悼む校長先生の記事でした。
フラッグのオーナーである友野さんは、"スクールガードのおじさん"として、登校する子ども達を見守る活動をされています。そんな友野さんといっしょに、フラッグは、桜の花が咲く頃も、夏の朝も、枯れ葉が舞う秋の日も、寒い冬も、いつも子どもたちの登校を優しい眼差しで見ていたそうです。
そんなフラッグが、ある日、姿を見せなくなりました。心配して友野さんにフラッグのことを尋ねる子どもたち。「亡くなったんだよ」という友野さんの言葉に驚いてフラッグのことを校長先生に報告する子どもや、地域の方たち。中には、友野さんに「生き返らせて・・・」と懇願する子どももいたそうです。そんな子どもたちに、友野さんは「フラッグはお星さまになったんだよ」とお話しされたとのこと。
小学校のお便りの記事の最後には、「フラッグ本当にありがとう」と記されています。
地域の活動だけでなく、関西盲導犬協会ボランティアの会「クイールの会」の募金活動でも、友野さんご家族と一緒に参加してくれていたフラッグ。
ご家族はもちろん、多くの子どもたち、地域の方々の心の中で、フラッグは今も優しい笑顔のまま生き続けているのではないでしょうか。ヨナ
関西盲導犬協会のPR犬といえばヨナちゃん、と言われるぐらい、その整った顔だちと愛嬌で協会のアイドル的存在のキャリアチェンジ犬です。
ヨナは、盲導犬事業にご協力くださる方からのご寄付を拝受する職員に同行したり、街頭募金会場に出かけていきます。街頭募金会場にヨナがいることで、関心をもって職員に声をかけてきてくださる方や、募金活動の手伝いを申し出てくださる方もおられます。それをきっかけに、職員は、関西盲導犬協会のことやなぜ募金活動をしているのか、といったこと等を説明させていただいています。募金してくださった方がヨナをさわっていかれることもありますが、そのような時には、「盲導犬にはさわったり、声をかけたり、見つめたりしないようにしてください」といったアピールをするようにしています。
みんなから「可愛い」「可愛い」と言われ、嬉しそうに笑顔を振りまくヨナ。普段は、事務所の中にあるお気に入りのいちごのクッションの上でのんびり過ごしています。そんなヨナに癒されている職員も多いようです。カシス
カシスが前田さんご家族の一員として迎えられたのは、今から8年前のこと。
今までに3頭の犬を飼育した経験をもつ前田さんは、お友達からキャリアチェンジ犬のことを聞き、協会にキャリアチェンジ犬の譲渡を申し込みました。
最初にカシスに会った時、そのあまりの元気さに家族中が驚いたそうです。今まで飼ってきたどの犬よりもエネルギッシュだったのです。うれしさのあまり、飛びついたり甘噛みしたり・・・。散歩の時もぴょんぴょん飛び跳ね、思ったように歩かないことが3年ほど続いたそうです。おかげで家族にはあざや引っかき傷が・・・。
そんないたずら大好き、遊び大好き、人間大好き、食欲旺盛なパワフルカシスは、おおらかで愛情あふれる前田さん家族に愛され、今年の8月には9歳になります。今では大変落ち着いて、とても穏やかに、そして健康に暮らしています。
カシスが前田さんのご家庭で暮らすようになった頃は5人家族だった前田家も、お子さまがそれぞれ独立し今ではご夫婦とカシスの3人暮らし。新聞を取りに行き、お父さんを駅まで送る車に乗ってお見送りするのが毎朝の日課だとか。前田さんご家族と共に歩んできたカシス。いつまでも家族に愛され長生きしてね。