盲導犬を希望する
盲導犬ユーザーの話
兵庫県在住 片倉早苗さん
幼児期に失明したので、小学校から盲学校でした
自宅からは通学できる距離ではなかったので寄宿舎で生活していました。当時の盲学校では、弱視の子とペアになって歩くのが当たり前でしたし、歩行訓練の時間もありませんでした。だから学生の時は、白杖は持っていませんでした。
卒業後、治療院に勤めるようになって初めて白杖を持ちました
すぐ折れてしまいそうな木製の短い杖でした。勤務先の治療院は訪問治療もしていたので、行きは一緒に行ってくれる人に道を聞いて必死で道を覚え、帰りは自己流ですが白杖を使って帰ります。田んぼや畑の多い場所だったので、用水路に落ちたこともありました。
やがて、息子が生まれ、その子が歩き出すと、「お母さんとしっかりお手々つないでいてね」と自然に手をつないで歩きますよね。それがそのまま、いつのまにか私を手引きしてくれるようになりました。息子が小学生になってからも、買い物などはいつも息子と一緒に行っていました。
その息子が小学校4年生の時でしょうか。家に帰ってくると「お母さん、今度の日曜日に買い物に行く?」と聞くのです。「うん、行くよ。またお願いね」と返すと、息子は「じゃぁ、買い物が終わってから○○君と遊びに行くわ」と言いました。それを聞いた時、ハッとしました。私のために子どもの時間を使わせてはいけない、私はちゃんと一人で歩かなくちゃ、と一大決心をし、日本ライトハウスで白杖の訓練を受けることにしました。
日本ライトハウスはJR片町線の放出駅から歩いて15分ぐらいのところにあります。一人で通えるようになったある日のこと、放出駅で所長と一緒になり、「一緒に行こう」と声をかけてもらいました。当時、日本ライトハウスの所長は盲導犬ユーザーで、盲導犬と歩く所長について歩くわけですが、一緒に歩くと10分足らずで着きました。そのスピードとしかもぶつからずに歩けたことに感動しました。私も盲導犬が欲しい、と思いました。早速、盲導犬の貸与を申し込んだところ、白杖の訓練が終わるか終わらないかのうちに日本ライトハウスの盲導犬との共同訓練に入ることができました。
その後、2頭目からは関西盲導犬協会の盲導犬を使用しています
盲導犬をもってからは、迷っても大丈夫と思うことができ、安心して出かけられるようになりました。とにかくよく出かけるようになりました。コンサートや現地集合の格安旅行などにも行きましたし、行動範囲が広くなりました。
盲導犬と歩くことは、必ずしもいい面ばかりではありません。電車の中で、隣に座った人が犬嫌いな様子であれば気を遣いますし、逆に犬の好きな人はさわったりするので、それも困ります。白杖ならそういう気遣いは要りません。また、気の合う人の手引きで歩く時は、おしゃべりをしながら退屈することがありません。
実は、3頭目の盲導犬の引退を考えた時、4頭目をもつかどうかかなり悩みました。白杖なら帰宅したら杖を傘立てに入れるだけすみます。しかし、盲導犬の場合には、まず玄関先で犬の足をきれいに拭き、体のほこりを落とすなどしなければなりません。また、毎日のブラッシングも必要です。こんなふうに手をかけ、愛情を注ぐことが大切なのです。自分の年齢などを考えた時、盲導犬と歩くことに心配はありませんでしたが、そんなふうに十分な世話ができるかどうか心配だったのです。
でも、逆に、以前でしたら白杖を使っての外出もあまり苦にならなかったでしょうけれど、今の私はやっぱり盲導犬がいないと困るのです。しかも、ただ単に安全に歩けるから盲導犬という方法を選んでいるわけではないようにも思います。イヤなことがあった時黙って話を聞いてくれる、この子がいてくれるからがんばって行こうという気持ちになれる、そんなかけがえのない存在だから、盲導犬といっしょに暮らすことを選んでいるのだと思います。